三島評本ランキング

(10/12にメモったエントリーを消して、他の本の評価をまじえて書きなおした)

三島由紀夫自身の著作ではなく、他人があーだこーだと勝手に評する類の本を、ここでは仮に三島評本と呼ぶ。高校時代から、見つけると買ってしまう性質だったが、残念ながら何度かの引越しで捨ててしまった。山本 舜勝の本から、FOR BEGINNERS、はては、「ムー」に特集されてる三島の転生と名乗る女性のたわごとまで、いろいろ読んだものである。

ここ数年で読んだものを列挙してみる。

△『果しえていない約束 三島由紀夫が遺せしもの』 (井上 豊夫 著)
著者は、表紙の但し書きによると元「楯の会」副班長
さっと読めた。三島先生へのリスペクトを中心に丁寧な記述。悪い気はしない。当たり前だが、楯の会の話が中心である。


×『三島由紀夫二・二六事件』 (松本 健一 著)
北一輝天皇と三島、という三軸で書こうという独りよがりのアイデアだけの本。偉い評論家か何か知らんが、得るものなし。


△『三島由紀夫伝説』 (奥野 健男 著)
個人的な思い出と絡めた、三島由紀夫への遠慮、思いやりといったスタンスが心地よいが、分析内容は特に感心しない。


○『烈士と呼ばれる男 森田必勝の物語』 (中村 彰彦 著)
三島の自決は、森田に引きずられた面があるのでは?という本。特に森田必勝という人についての本は読んだことがなかったので、なかなか面白かった。


×『ペルソナ』 (猪瀬 直樹 著)
もうこの著者の本は読まないことに決めた、記念すべき本。30ページに圧縮してあとは年表にすればいいんでないか。


×『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』 (橋本 治 著)
橋本治に悪い印象はないが、この本は手ごわかった。途中で読むのを投げ出したのは、久しぶりである。参った。金は返さなくていいけど時間を返してくれないか。


○『平凡パンチ三島由紀夫』 (椎根 和 著)
思いのほか、目の覚めるような事実、エピソード、そして三島由紀夫の素顔(と思わせる)記載。ただ、途中、何を書いているのかさっぱり分からなくなるのが難点だが、ここまであげた本に比べると、なかなか面白かった。


◎『三島由紀夫おぼえがき』 (渋澤 龍彦 著)
現時点で、僕がもっとも納得のできる三島由紀夫についての論稿?集。死の直前まで、著者のようなタイプのひとと、このような付き合いをできていた人が、単純な「右翼」であるはずがないと、あらためて思う。
もっとも僕自身は、三島が書いて見せる戦後日本を否定する叫び(例えば英霊の声のリフレインや、檄文)が大好きなのだが、それをここまで「何の関係もない」と否定されると、非常に気持ちがいい。筆者がかつて尊敬した友人であり先輩である三島由紀夫に対する、物書きとしての潔い態度、というべきか。三島をとにかく政治的に捉えたくて仕方がないひとにも、一読を勧める。このような良書が絶版なのは、非常によろしくない。再販を望む。


というわけで、渋澤龍彦を高評価してしまった関係上、次は『三島由紀夫あるいは空虚のヴィジョン』を読む予定で古本を入手したが、その前に、大井篤氏の名著『海上護衛戦』に手を出してしまった。忙しい。つん読は続く。