母の膵臓癌・手術後

また会社を休んでしまった。なんかもう会社の皆さんに申し訳ない。
膵頭部十二指腸切除術、というものらしいが、簡単に言うと、膵臓の半分はもとより、肝臓の一部、胆嚢、十二指腸まるごと、胃の一部までを切除し、そのあと、小腸を上に引っ張りあげて、膵臓・肝臓・胃と三ヶ所を接合するという、改造人間に近い手術である。

さてここで話題が逸れるのをお許しいただきたい。僕は昔から、大学病院でいい思いをしたことが一度もない。侮辱を受けたと感じたことは何度かある。自分の母校の医学部付属病院についてすら、いい思い出がない。まして他の大学など、悪口は過去さんざん書いてきたが、はっきりいって今回も、「大学病院のここがダメだ」という僕の印象を強めるばかりだった。

15年ほど前、交通事故で(後で分かったのだが)ろっ骨を折った状態で、伊勢原の東○大学病院にヨロヨロと行った際、1時間も待たされた末、キンキン声の生意気な学生が出てきて、医者・患者の立場を勘違いしためちゃくちゃな敬語を使って、こう僕に言った。
「○○教授は、いま講義のため席を外しておられますので、私が聞きますが、どうしたんですか?」
「ですから、さっき説明した通り、事故で全身を打ったので、検査してほしいと……」
「困りますね、どこが痛いか分からなければ診察できません」
「いや、だから全身を」
……馬鹿馬鹿しいから以下省略するが、怒った僕はさっさとこんな馬鹿病院を出てきた。そして一週間後、痛みに耐えかねて近所の町医者にかかったら、ひと目でろっ骨折れてるでしょと言われ、よく我慢したねと誉められた。

実は、このような例はいっぱい有るのだが、全部書いていると本題に入れないので、省略する。とにかく僕は、こんなアホ大学病院は訴えてやりたいぐらいだが、所詮、学園祭の模擬店みたいなもの、訴える価値もない、と考えることにしている。真面目に理想をもって頑張っている関係者には申し訳ないが、僕はそう感じている。

さて、そんなわけで、ぼくは大学病院と名のつく、学園祭の模擬店には死んでも命を預けないことに決めているが、母は違う。
国立がんセンターは遠いから、近場がいいと言うのである。

いや、腕は確かなんだろうし、本当にいい先生、いい看護士もいっぱいいる。それはここに明記しよう。
しかし、ほんの少数、学生気分で患者の必死な気持ちを逆なでする医師や看護士も、中には居る。そして、ほんのわずかなそんな人間のために、深く傷つく患者も居るのだ。

手術の説明をする医師が、学生に講義するような調子でシャーシャーと私の神経を逆なでした件は、いったん省略しよう。しかもこの医師、癌の場所を間違えて説明していたことも、省略しよう。全部書いているとキリがなくて話がいつまでも終わらないから。

昨日、母の手術のあと、切り取った臓器を乱暴にひっくり返しながら医師に説明された時点で、かなり僕は頭に来ていた。
僕は怒鳴るのも大人げないと思い、軽く皮肉を言ったが、医師には通じず、「気分が悪くなりましたか?」と聞かれた。
アホか。
俺様のたった一人の肉親であるお袋の一部であった十二指腸や膵臓を、無造作に乱暴に扱うあなたの行動を、失礼であり侮辱的であると私は感じ、怒りを抑えていたのだ。人差し指で乱暴に弾いたり、放り出すように裏返したりする動作を見せつけられながら、ホルマリン漬けにする話ばかりされたら、病状を心配しながら7時間も手術終了を待って、不安いっぱいの患者家族がどう感じるか、わからんのか?
そして、そう感じる僕の感性は、決して少数派ではないと思うが。

しかし、行きつけの本屋のオヤジは、「そんなで怒っていたら、付き合い切れないよ」と僕をなだめた。

そんなものかしらと気を取り直し、今日も朝から病院に行った。そして、ICUから戻ってナースステーション横に置かれた母につきそううち……やっぱりだんだん腹が立ってきた。それは特定の、たった一人の看護士に対してだ。怒りが収まらなくなり、ついにいつも通り、憎まれ口とイヤミを叩いてきてしまった。自分の未熟さと非寛容さがいやになる。が、これで怒らなければおかしい!と、もう一人の冷静な自分が舌打ちまじりに呟いているのも、また事実なのだ。
その点については、頭の血が下がってから、いずれ詳細に書こう。