酒は人生の目的じゃない

飲む気もせずに疲れて帰ってきて、バスで酔っ払いの名物ジジイに絡まれた。

こっちは、朝から晩まで、松葉杖で足腫らせて頑張っているというのに…チミの年金を僕らが払っているということに、もうちょっと、数ミリでいいから、敬意を払えとは言わんが、人間としての最低限の礼儀を守ってはもらえんか。世の中には年金がなくなって困っている人も居るというのに、このじいさんは、毎日のように酔っ払ってみんなに迷惑をかけて、本人は
「言うべきことを言った。やれやれ一仕事終わった」
とばかりに満足げに足おっぴろげて、みんなに嫌がられているのも気づかず、一人、悦に入っている。どうにもやり切れない。別に悪い人ではないと思うのだが、こうなってはもう、誰にも、助けようがない。

数週間前も、酔っ払ってウロウロして、ベンチに座るぼくの足を何度も踏もうとしたので覚えている。
最初は、ぼくが怪我して足を骨折しているのを知って、わざと、いやがらせをしているのかと思った。そのぐらいしつこかった、いや、もしかしたら、そうだったのかも知れない。そして、バスに乗ってから、酒臭い息をふうふうはいて周りに嫌がられながら、また別の誰かをつかまえて、今日ぼくに言ったのと同じことを言っていた。いつもこうなんだな。

「この一杯がたまらないね」
という言い方はぼくもする。でも、それが目的じゃない。酒は人生の目的じゃない。

飲まないで済むなら、その方がいい。

飲んだ時の気持ちよさ、精神の変容は、嫌いじゃない。アルコールは、中毒性の低い(皆無じゃない)ドラッグであるから。
でも、ドラッグなしにハイになれるなら、ぼくはその方が好きだ。

…この酒好きのぼくが、こんなことを思うとは、相当疲れ、病んでいるのか?それとも、それほどまでにひどいジジイだったのか?どっちだ?